2007年06月07日

映画レビュー#52「ブラック・ブック」

blackbook.jpg
基本情報
「ブラック・ブック」(2007、オランダ)
監督:ポール・バーホーベン(氷の微笑、ロボコップ)
脚本:ジェラルド・ソエトマン、ポール・バーホーベン
製作:ジョス・ヴァン・ダー・リンデン、イエルーン・ベーカー、テューン・ヒルテ
出演:カリス・ファン・ハウテン、トム・ホフマン(シャボン玉エレジー、4番目の男)、セバスチャン・コッホ(善き人のためのソナタ)

2006ベネチア国際映画祭正式出品作品

公式サイト
http://www.blackbook.jp/

ポール・バーホーベン監督のオランダ時代の代表作「4番目の男」と、ハリウッド時代の代表作「スターシップ・トゥルーパーズ」です。
  

ストーリーと基本情報
美しい歌声も持つユダヤ人女性、ラヘルは、ナチスの手から逃れる為、南部へと向かおうとするが、途中ナチスに家族を皆殺しにされてしまう。レジスタンスに助けられた彼女は、自らもレジスタンスなる事を決意。彼女の任務は、ドイツ人将校ムンツェの愛人となり、情報を探ること。黒髪を金髪に染め、ラヘルは、ムンツェに接触することに成功する。しかし、ムンツェもまた家族を戦争で失っていることを知ったラヘルは、次第に任務と彼への思いの狭間で葛藤し始める。
「ロボコップ」、「氷の微笑」等で知られるヒットメーカー、ポール・バーホーベン監督が20年ぶりに祖国オランダへと戻り製作した、渾身の大作ドラマ。本作は、オランダ映画史上、最高の製作費が投入された。

大作主義の作家主義者、バーホーベン
ポール・バーホーベンは特異なポジションにいる監督だ。ポール・バーホーベンと云えば、ド派手なSFXを駆使した派手なアクション映画や、「氷の微笑」や「ショーガール」などのエロティックな娯楽作品で知られるが、ハリウッドに渡る前は「4番目の男」などのような、作家主義的な作品も作っている。いつの頃からか、映画は、大別して二分された。一つはハリウッドに代表されるような娯楽大作映画。もう一つはヨーロッパの主要映画祭で注目を浴びるような作家主義的な作品。去年、受けた映画の授業で、USCから来ていた教授に由れば、作家主義的な作品が隆盛を極めたのは、60年代〜70年代後半までの「モダニズム」の時代までで、その後は表層の戯れに終始する「ポストモダン」の時代が今に至るまで続いているとしている。ヌーベル・バーグやアメリカン・ニューシネマがもてはやされたモダニズムの反動で、ポストモダンの時代には、深みやリアリティを欠く作品がヒットするようになった。教授挙げた、ポスト・モダン時代の作品の特徴として、「ノスタルジー的な物への回帰、リアリティが欠如し、表層的な表現が増える、複合的なジャンル要素で構成される、リミックス、コラージュ的に過去の表現のサンプリングによって作品が構成される、メディアミックス的な販売戦略を展開できる作品が好まれる」等々がある。ベトナム戦争の泥沼を背景に、時代の狂気をタクシードライバーを通じて描いたスコセッシや、刹那的な生き方に溺れる若者をリアルに描いた「俺たちに明日はない」が生まれたのがモダニズムの時代で、スピルバーグがヒッチコックの表現をリミックスして「ジョーズ」を作り、ルーカスが、SFと古典的な冒険活劇を組み合わせた「スターウォーズ」を作り、様々なメディア(おもちゃ、フィギュア、ノベルズetc)で稼ぎまくったのがポストモダンであるわけだ。
バーホーベンは、70年代にオランダで監督としてのキャリアをスタートし、80年代からはハリウッドで活躍して来た人物だ。やはり、オランダ時代とアメリカ時代の作風は大分違う。しかし、彼はポストモダンのアメリカ映画に於いても、単に表層的な作品を作ることを良してしていない。「ロボコップ」や「トータル・リコール」のような作品でも派手なSFXの裏側に深みのメッセージを入れてもいる。「スターシップ・トゥルーパーズ」もそうだろう。モダニズム的な作家主義か、表層的な娯楽作品か。バーホーベン監督は、そのどちらも選ばない。彼はその時代性ゆえに相反してしまうその二つを調和させようとしている。

派手な描写にくるまれた深い洞察
作中には、ロボコップ並のバイオレンス描写が多数あり、氷の微笑を思わせるようなエロティック描写もふんだんに盛り込まれている。ストーリーはサスペンス仕立てで展開していく。まさにバーホーベン得意のエロティック・バイオレンス映画の集大成のような赴きがある。その一方、この作品は、ナチス占領下時代のオランダの知られざる暗部を描く。ナチスを題材に扱った映画は、大半がナチスが悪、ユダヤ人がその悲劇の犠牲者、レジスタンスが正義、というような図式になりがちだが、バーホーベンはそれに一石を投じてみせた。今作では、ナチス一員である将校ムンツェも痛みを抱えた人間として描かれ、終戦後、ナチスを収容所にぶち込むレジスタンス達の劣悪な姿も描き、ユダヤ人同士の裏切りをも描く。そして、そのようなつらい時代を乗り越えたにも拘らず、今だに戦争をしているイスラエルを俯瞰から捉える映像でこの映画は幕を閉じる。表層的に派手な描写を汎出させておきつつも、決して答えを簡単にはだせない問題に正面から向き合っている。

この映画はかつてのハリウッド黄金時代の大作映画の貫禄を持っている。まがい物ではない、真の大作映画だ。
低予算で作家主義的な映画を作るでもない、割り切って表象的な娯楽映画をつくるでもない、最も難しい挑戦に果敢に挑んだバーホーベン監督に拍手を送りたい。

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posted by hotaka at 03:30| Comment(0) | TrackBack(32) | 映画レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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